おまんじゅう
「おはようございます。」
私はコンビニでバイトをしている。今日は土曜日で比較的お客さんも入るのでいつも混雑する。
「〇〇さんはレジはいってね。」
「はい。」
私はいつものようにレジに入る。
「レジお願いします」
お弁当を陳列していた私はすぐに傍にあるレジに入った。
「いらっしゃいませ。」
そこにはたまに見る30代くらいの男性がいた。
私はずっと思っていたことを今回はちょっと勇気を出して聞いてみた。
「いつもこれ(おまんじゅう)買いますね。」
すると男性は、
「あ、あぁ。」といってうんうんと頷いた。
「好きなんですね?」
「いや、これは、俺じゃぁないんです。」
そう言うと、慌ててお釣りをもらい店を後にした。
兄が当時入院していた母のところに行く時、
途中のコンビニで、いつも「おまんじゅう」を買っていた。一緒にコーラも飲ませていた。
それを母親に食べさせていた。
いつからか、コーラが無くなり、カットフルーツを一緒に持って行っていたようだ。
私がおまんじゅうを持っていくと何故だかいらない、と言われてしまった。
母は食べることが大好きで、私も母と一緒に食べる時間が好きだった。
お昼時に向かうと、みんなで一斉に食事をしているところに母親もいて、
お粥のようなおじやのようなものを食べていた。
こぼしながらでも自分で食べていた。私は持っていたティシュでこぼれたそれをふき取っていた。
すると、母親はそばにおいてあったプリンに手を伸ばし、食べようとしていた。
「プリン食べるの?」
母親はうん、と頷き水を得た魚のようにむしゃむしゃと食べていた。
これでもか、というくらいに最後の最後まで食べようとしていたので、
「とってあげようか?」と最後まできれいにとって食べさせてあげた。
「満足?」と母親に聞くと、「うん」と頷き、「お母さんプリン好き?」とすかさず私は母に聞いてみた。
「うん。好き。」と答えてくれた。
プリンを食べ終えたので、私はこれでごはんは終わりかな?と思ったらまた残っていたお粥を食べ始めた。
「まだ食べるんだ。」私は少し驚いた。
味噌汁もほぼ残さず飲み干し、ほぼ完食した。
そういえば、こんなことを母親と話したことがある。
「好きな物は先に食べるものだ。」と。
当時、幼かった私は、好きなものは最後にとっておく、というクセがあった。
それをみていた母親が思わず話したのだろう。
ご飯を食べ終わったという母はすかさず、「歯ブラシ。」という。歯磨きをするというのだ。
当時の看護師さんが言うには、「ちゃんと自分でやるんですよ。」なんていっていた。
自分が出来ることをしようと母もがんばっていたのだ。
何事に対してもがんばる母親だった。
レクリエーション的なものが定期的にあって、
自由にやりたいものや食べたいものを患者さん自らが話す時間があって、たまたまある時私も同席させてもらった。
「お母さん、何かある?食べたいものとかある?」
「お団子。」
「お団子食べたい?」
それを看護師さんに伝えると
「この間もそんなこと言ってたね。もっと大きな声で言ってね。」
お団子も昔よく一緒に食べた。
あんことみたらしが入っているものを食べたが、私があんこ嫌い、と言ったのでみたらし団子のみのものを一緒に食べていた。
その頃のことを思い出していたのかもしれない。
病院を出て、車の中で兄に電話をかけてみる。
「もしもし、お兄ちゃん?」
「おう。今病院か。」
「うん。それでさ、お昼を食べてたんだけどさ、ご飯の途中でプリンを食べてさ。笑っちゃったー。プリンを食べたあともご飯食べてさ。」
「そうかー。いいんだ。それで。それでいいんだ。」
兄は力強く言っていた。
※母親は先月の25日に亡くなりました。