punimaruko157のブログ

主に急逝してしまった兄の話。

うどん屋

私の実家の道路を挟んで向かい側に、昔から馴染みのあるうどん屋さんがある。

暖簾をくぐって扉を開けるとテーブル席が二つに、左側にはお座敷二席、テレビや雑誌も置いてある。その奥にもお座席があって夏のお祭り時期や年末などはたくさんの人で賑わう。

 

テーブル席に座ると、正面に大きな金魚の水槽がある。

15センチはあるだろうか。かなり大きな金魚が数匹、お客さんを覗き込むように泳いでいる。

「こんにちは。」

私はお茶をもらい、すぐにざるそばを頼んだ。

近くに銀行があるので、「銀行でも寄ってきたかい?」なんて聞かれた。

「お父さんのところに行ってきたとこなんです。」私は答えた。

ネットの記事を読み終わるとざるそばがきた。私の他にお客さんはいなかった。

蕎麦湯も同時に持ってきてくれた。私は蕎麦湯が大好きだ。

つゆとねぎを入れ、わさびも少し入れてズルズルと音を立てて食べる。

昔と変わらないいつもの味がそこにはあった。

ゆっくりとお茶と蕎麦湯を飲み干して私はお店を後にした。

 

私たち家族は、食べに行ったり、時には出前をとったり、本当にお世話になった。

私は幼い頃、小学校の頃くらいだろうか。たぬきうどんをよく食べていた。

母がねぎなんうどんを食べていたのをみて私もまねしてねぎなんうどんを食べた。

ねぎが少しトロッとしていてとても美味しかった。その味に惹かれてねぎなんうどんを食べるようになった。

一方で父はざるそばを食べていた。これは昔も今も変わらない。変わったのは麺の「固さ」だろうか。歯が全くない状態で食べるので柔らかくしてもらっているのだ。入れ歯をすればいいと言っているのに父は全くいうことを聞かない。

兄も、ざるそばを食べていた。いつからか大盛りになっていた。ざるそばは私も大好きだ。食べた後の蕎麦湯は必ずいただく。

昔からのいつもの変わらない味が、私を安堵にさせる。

 

ある時、少しだけお手伝いに伺ったことがあって、その味の秘密を目にすることができた。

それは、「お出汁」をきちんととっていることがわかった。これは私の想像だが、昆布と鰹節、かなんかではないかと思う。

出汁がきちんとしていることでその味に深みが出てくるように思う。

 

また、お蕎麦を茹でる「釜」が40年以上未だ現役で使っているということ。

薪で炊いている。私はびっくりした。初めて知った事だった。

それを、80を超えた腰が曲がった「おばさん」が今でも現役で茹でているということ。

私が幼い頃もそのおばさんは一人で切り盛りしていた。一人でずっとずっと。

おばさんは、早くに旦那さんを亡くしたという。父が教えてくれた。

手伝いの方も一人いらっしゃるのだけど、この歳にして続けているということは本当にすごいし、身体も大事にしてほしいという気持ちにもなる。

 

 

私は、いつまでもその「味」を忘れない。