ビニール傘
私は、いつものように父親をお風呂に連れていった。
迎えに行くちょうどその時、雨が降っていた。
父のところにちゃんとした傘がないことを思い出した私は、家にあった割と新品のビニール傘を車に積んだ。
お風呂に入り、いつものところでごはんを食べ、送って行った時。
傘に気づいた父は元々あった”ちょっと古い“傘に手を添えた。
「あ、それだめ。お兄ちゃんのだから。」
「お父さんのはそんなに新しいのじゃない。」
「いいよ?お兄ちゃんのでよかったら持ってってもいいよ?」
最終的に父は兄の傘を持っていった。
私は父にも最後まで兄の事を忘れないでいてほしいと思っている。
もうなかったことにしたい、そう父が願っていたことを知った。
忘れないで、これは私の押し付けになるかもしれない。
だけど、少なくともわたしたち家族は自分の命がなくなるその日までは兄が生きていた、ということを胸に刻んでいかなくては、と考える。