車のシート
「寒くなったいなぁ。」
父はそう言って兄が乗っていた車に乗り込む。
「急に寒くなったよね。」
私はそういうと、シートの暖房にスイッチを入れた。
「この車ね、シートがあったかくできるの。あったかくなった?」
「うん。いくらかな。」
私はさらに父に尋ねた。
「お兄ちゃんもあったかくしてくれた?」
「うん。してくいた。」
「あそう。お兄ちゃん優しいね。優しいね、お兄ちゃん。」
私は知らなかった。
父は、寒いのにかかわらず、ストーブを使わなかったという。
それなのに、いつも行く中華屋さんにはお歳暮、とか言ってお酒とおみかんを買ってわざわざ渡すという。
自分のことは二の次なのだ。
父が自発的にすることを、私は止めることはできなかった。
年金生活で家も長い間借り屋で、ボロボロの家に住んでいる。雨漏りなんかもひどい。
そんな父がいつもお世話になっているからと気を使って手土産を持っていく。
そして、ちゃんと「おみかん美味しくいただきましたよ。」と声をかけていただいて。
父にとっては大事な「居場所」なんだと私は感じた。
私は思い出した。
大好きなジャーナリスト、堀潤さんの取材のお話し。
「僕が家に伺うと、わざわざ僕のためにグレープジュースを買ってきてくれるんです。」
綺麗なガラスのグラスに注がれたグレープジュースの写真を見ました。
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父の姿を見て私はガザを感じました。
ガザの人たちは幸せかな?