コインランドリー
ある雨の日だった。
私はたまった洗濯物をどうしようと困っていた。
コンビニも閉店してしまう田舎町。
その代わりにコインランドリーが増えていることに気づいた。
そのほかにアパートもまた、増えていた。
私は近所にあるコインランドリーに向かった。
コインランドリーは便利である。
洗剤、柔軟剤を入れる事なく洗濯、乾燥をしてくれる。
乾燥機にかけたとき、タオルがふっくらとしていた。
私は思い出した。
兄の家にあったタオルがふっくらとしていた。Tシャツも同様に。
そういえば、まず先に生活雑貨を買ったのは洗濯用洗剤と柔軟剤だった。
柔軟剤については、なかった。私はそこがすごく不思議に思っていた。
兄が亡くなったという一報を受けて警察から兄の自宅の鍵を預かり、家にあがってみた。
部屋の中には何枚かTシャツが干してあった。プラスチック製の青い物干しのハンガーにも、何枚かタオルがあったように思う。靴下もあっただろうか。
一年が過ぎてしまったので記憶が曖昧になっているかもしれない。これは私の印象という可能性もある。
印象、意見というものはとても怖い。これは、メディアリテラシーを語る事にも通じると私は考えている。
話を洗濯物に戻そう。
まずは洗濯機。兄は知人からいただいたという洗濯機を引っ越し以来、約20年は変える事なく使っていた。とりあえず動くので私も引き続き使っている。
そして、兄の家にあった服、タオルがふっくらとしていた。
兄はコインランドリーを利用していたのではないか、という私の意見ができた。
独り身だったので、洗濯機を買うよりコインランドリーの方が、と思ったのかもしれない。
部屋にかけてあった青い物干しハンガーには何枚かの洗濯物が干してあった。それには母の名前が書いてあった。
母は精神病院に長期入院していた。何度も入退院を繰り返していた。
回復してくると母は自分自身でリハビリとして洗濯をすることがあった。その時の物干しハンガーだった。
スーツが入っていたタンスのそばに、プラスチック製の白い物干しのハンガーが置いてあった。
これは?と思い広げてみた。所々壊れていて使えなくなっていた。兄は捨てる事がなく放置していた。
私はしばらくその青い物干しハンガーを使ってみた。
たくさん干そうとすると時々落ちてしまうことがあった。落ちるとプラスチックのあるところにひびが入っていることに気づいた。洗濯ばさみも何個か壊れてしまっていた。私はそこでひらめいた。
ある程度ためて洗濯してたけど、ハンガーが落ちてしまうので、コインランドリーを利用していたのではないか、ということを。
また、乾燥機を使うことでいい仕上がりになるので、こっちの方がてっとり早い、とも思っただろうか。
この事を知る人はいただろうか?こんなこと知ってどうなる?と思われた方もいらっしゃるかもしれない。
でも、私は知りたい。兄の42年間を。どう生きていたのかを。何を考え、どう行動していたのかを。
兄は自分のことをあまり人に言うことはなかった。妹の私でさえも。知らない事がたくさんあった。「俺のことはいいんだよ。」なんて言って。
兄の家に住むことで兄の姿が見えてくることがあった。
もっともっと、兄の話を聞きたかった。
そんな事を綴っている「今」も、雨が降っている。