punimaruko157のブログ

主に急逝してしまった兄の話。

焼きそば

焼きそば、というと、ソース焼きそばを思い浮かべることが多いかもしれない。

あの「ペヤング」の工場は私の住む群馬県にある。

また、焼きそばは私も母親から作り方を教わった料理の一つでもある。

野菜をたっぷり炒めて、麺を入れた後にその炒めた野菜をのせて、もやしも乗せてお水を入れて蒸し焼きにすることがコツである。

母の言う通りに作っていたら父も気に入っていたようで、週末のお昼は私が焼きそばを作って両親に食べさせていたこともあった。

 

 

先日、父とお風呂に行った帰り、いつもの中華屋さんでお昼を食べた。

いつもなら「味噌ラーメン」を頼む父ですが、その日は珍しく違った。

焼きそばを頼むという。

ここの焼きそばはどういうものかと私に聞かれた。

「しょうゆ味」って書いてあるよ。私は父にそう言った。

いつもの店員さんに再び聞いてみたら、「タンメンの麺にしょうゆ味のものですよ」とさらに丁寧に説明してくれた。

それを聞いた父は納得して焼きそばを頼んだ。

私は母が食べていた五目ラーメンを頼んだ。餃子は今回は頼むのをやめた。

それには理由があって。

人気店なので行くといつも混んでいる。この日ももれなく混んでいた。なので店の前に名前を書いて待っている時間、父は料理を運んでいる店員さんやお客さんの様子をじーっと見つめているのだ。

これは私の想像。

父はそれだけでお腹がいっぱいになってしまうのではないか、と思うのである。

いつもの声をかけてくれる店員さんに、鍋を振るう職人さんに会えるのを楽しみにしているのではないか、なんて思うのだ。

私はこの日、なんでこの中華屋さんなのか聞いてみた。

「なんでもないよ」と父から答えが。

核心をつく質問をすると人は答えを誤魔化す傾向にある。父もその一種なのかもしれない。

 

焼きそばが先にきた。いつも父が頼むものが先にくる。これはお店の方の心遣いなのかもしれない。同時に食べ終わらないと父は残してしまう傾向にあった。それを見てのものだと想像する。歯がない父の食べる姿を見てということもあるだろう。

とてもありがたい。

すぐに食べ始める父。「美味しい」と言っていた。そのすぐ後に私が頼んだ五目ラーメンも届いた。

母が食べていたという理由で私は五目ラーメンを食べるのだが、この塩味のだしの効いたスープがお気に入りでいつも食べている。私の好きなメニューの一つになった。

 

私もラーメンを食べつつちらっと父を見ると、体を乗り出して別のところを一生懸命見つめている。

「何を見ているの?」私は思わず父に問いかけた。

「カレンダーだよ。」

さらに、父が「焼きそばがしょっぱい」と言い始めて。しまいには、「スープはねぇんきゃ。」と言ってきて。

私はとっさに食べていたラーメンを急いで食べ終えると残ったスープを父にあげた。

父も以前に食べたことがあって、美味しいと言っていたのを思い出した。

あの時の私のとっさの行動はなんとかせねば、というものだった。

本当に焦った。

父はなんだかんだで意外と舌が肥えている人なんだと思う。

兄もそうだった。色々な飲み屋を飲んで食べていくうちにそうなったのだろう。

こういうところが親子だったんだな、と今更ながら私は知った。

 

食べ終えて会計に向かうとき、いつもの料理人の人に、「美味しかったよ」と声をかけていた。

これは父の心遣い、と言っていいのか。

カウンターで食べていたので、きっと私たちの会話はまる聞こえだったように思う。

なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。

 

この日はこれだけではなかった。

注文をし、いつものようにスマホを見ていると、いつも声をかけてくださる店員さんが、私に「今日はお父さんに嬉しい一言を言ってくれたんですよ」と半ば興奮気味に伝えてくれた。

私も興味津々に何を言ったんですか?と聞くと、「そんなんじゃ嫁にいけないぞ、って。私孫もいるのに。なんだか嬉しくなっちゃって。」

「お父さんそんなこと言ったの?!」その時父は新聞を読んで知らんぷりをしていた。そういうところ。

「まだまだいける、ってことですね。」と私も思わず言ってみた。

「書いてる時にボールペンがダメになって、こんなんじゃだめですね。私みたいに。」という話から父は嫁にいけないぞ、って言ったとさらに教えてくださった。

 

会計をその人がしてくれて、父が、「悪いこと言っちゃったかい?」とお詫びを入れていた。すると「そんなこと全然ないですよ」とむしろ嬉しかったと言ってくださり、またさらに「仲」が深まった出来事だった。

食を通して、人と人とが繋がるのだな、ということがわかった。

 

食べることは、至福で、友達の仲もより深まる。また、世界をもつなげる。

世界も繋がる、ということについては、またいつかのブログで。